『英語ヒエラルキー~グローバル人材教育を受けた学生はなぜ不安なのか~ 』(佐々木 テレサ 、福島 青史 著)はタイトルから受ける印象をいい方向に裏切る良書。本書のサブタイトルには「グローバル人材教育を受けた学生はなぜ不安なのか」とあるが、このグローバル人材教育が「EMIプログラム」のことだと新聞広告にあり、そもそもEMIプログラムを知らなかったので、この本を購入した。ご存じの方も多いだろうが、EMIとはEnglish-Medium Instruction の略で、EMIプログラムは「非英語圏の大学が授業を英語で行うプログラム」(ChatGPTの説明)のこと。
本書は著者・佐々木テレサが書いた早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程での修士論文を元にした内容に、指導教官の福島青史が解説を加える構成となっている。佐々木はEMIプログラムが実施されている早稲田大学国際教養学部を卒業して、大学院に進んでいる。本論では純ジャパ(純粋ジャパニーズの略)の佐々木がEMI実施学部の4人(同学部の同窓生?)に詳細にインタビューし、彼ら、彼女らの経験からEMIプログラムによるグローバル人材教育の実態、問題点、その改善案を展開している。
本書で驚くことがいくつもある。佐々木を含めインタビューを受けた全員は、大学入学前(高校まで)、自らの英語力に絶対といっていいほど自信があった。しかし。大学入学後。自分よりはるかに英語力のある学生がいて、早々に自信を失っている。
そして大学の学部4年間(うち1年間は海外留学)だけで、日本語がまともに出来なくなっているという事実だ。ひとりのインタビュイー は「英語力」と「日本語力」がトレードオフしている、と言う。
また別なインタビュイー が学部卒業し、入社した会社でのこと。社内で督促のメールを発信するとき、「今日の午前中までに返事してください」と書こうとしたのだが、文章が思い浮かばず「午前中までにリアクションしてください」と書いたと。
またEMIプログラムを実施している早稲田ではではリベラルアーツ教育を行っているため、専攻が基本的にはない。このため、学生は広く浅く学び、体系的に学ぶことができないという悩みを抱えてもいる。
佐々木は、
「私の意見ではありますが、いまの日本は英語というものを重要視しすぎているような気がしています」
と書いている。
教育現場にいないので無責任な立場だが、まさにその通りだと思う。
日本におけるグローバル人材教育とは何なのか。英語教育とはどう行われるのがいいのか。考えるべきテーマをたくさん与えてくれる一冊。
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