「杉浦康平と写植の時代」という宇宙
すごい本です。『杉浦康平と写植の時代―光学技術と日本語のデザイン』(阿部卓也 著)。今年3月に出版された本ですが、菊判488ページになかなか読み始められず、やっと読了。1980年代まで出版、広告のデザインでの版下製作を支配した「写植」という技術を、関係者へのインタビューと膨大な資料から辿った力作。
「16QゴナE」とか「24QナールD」とか入稿原稿に手書き、赤ペンで指定したことを思いだしました(でも、出版、広告あたりで仕事をしていた人でないと、まったくわからないだろうな)。
80年代くらい(DTPが導入される前)まで印刷物の文字をつくる基本の技術であった写植(写真植字)の誕生から衰退(消滅)までを、この時代のキーマン・杉浦康平というデザイナーの活動を軸にして探求した労作です。
本書は論文として書かれていますが(本書の元になった論文で「立命館白川静記念東洋文字文化賞」を受賞)、ノンフィクションとしても読んでも面白く、刺激的です。
ひらがな、かたかな、そして膨大な数の漢字が混在し、縦書き、横書きもある日本語を印刷する技術を支えた写植は、日本独自の文化体系です。しかし、90年代、主にアメリカのテクノロジーの日本語化によりDTPが主流となり、写植は舞台を降ります。奇しくも失われた30年(今も継続しているのでしょう)が始まる時期です。感慨深いものがあります。
| 固定リンク | 0
コメント