伊東豊雄:あの日からの建築
建築家が作品について語ることは少なくないですが、自らの生きてきた道を語ることはあまりないように思います。日本を代表する建築家のひとり、伊東豊雄の新著『あの日からの建築』(集英社新書)には、ありのままの伊東豊雄があります。
本書はタイトルからわかるように、昨年の3月11日以降に著者が考えたこと、やってきたことを中心に綴られています。ただ、伊東豊雄が執筆したのではなく、本にする目的でインタビューを行い、それをまとめた内容です。そのため、客観的に伊東の活動、思い、思想、心情が描かれています。
全6章で構成されていますが、前半では、3月11日以降に被災地で行った伊東が関わった活動、プロジェクトが語られます。そしてなぜ伊東建築塾を立ち上げたのかが続きます。伊東の3月11日以降の活動は献身的なものであったのがよくわかります。
本書の前半部分も伊東の現在を知る貴重なものですが、後半の「第5章 私の歩んできた道」には、建築家が自らの半生を語ったという点でとても印象的な部分です。伊東は率直にこれまでの苦悩、迷いを語っていいます。また「第6章 これからの建築を考える」は建築家が理想と現実の狭間で苦闘する姿が綴られます。
例えば伊東をはじめとするアトリエ派と称される建築家たちは公共的なプロジェクトに呼ばれないというジレンマがあります。そのためプラストレーションがたまり、その発散のはけ口として漸進的な小住宅を設計します。するとその斬新性ゆえ海外での評価が上がる。そして日本のゼネコンは極めて高い技術力を持っているので、斬新性を実現した建築が実現する。そのことで、更に海外での評価が高まります。
伊東はこう言います。
「つまり私自身もそうですが、海外からはいろいろと声がかかるけれども、日本の社会にはあまり組み込まれない存在なのです」
この状況ゆえ、
「震災の復興計画にも日本の建築家が呼ばれなかった」
と伊東は続けます。
今、そしてこれからの建築が目指すのはどこなのか。伊東の言葉は多くの示唆に富んでいます。
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