辻井喬と堤清二
武蔵美で博物館学などを教えていただいた先生が、以前セゾン美術館の学芸員をされていました。セゾン美術館といっても、若い方はその存在そのものを知らないかもしれません。池袋の西武百貨店の中にあったミュージアムです。その時代、西武百貨店は文化の面で最先端を走っていました。その中心にいたのが、堤清二です。パルコを作り、無印良品もはじめた堤清二は、辻井喬のペンネームで、詩人であり、作家でもあります。
「ポスト消費社会のゆくえ」(文春新書)は、辻井喬と、社会学者・上野千鶴子の対談で、西武、セゾングループの誕生から解体までを明らかにしようとする労作です。堤清二、すなわち経営者としての評価は、現在のところ芳しくないものかもしれません。しかし、私としては堤清二と辻井喬という、二面性をもつ人間そのものにとても興味があり、またある意味人間の理想な姿とも考えています。その点から、この一冊はとても面白く読めました。
2008年の現在、一流の作家である人物が大企業の経営者を務めることは、ほとんど無理でしょう(そんなことが許されるのは資生堂かベネッセくらいでは)。企業は効率だけを追い求める殺伐とした組織になってしまいました。残念です。
しかし、この辻井喬と上野千鶴子の対談は、単によき時代を振り返るだけでなく、これから企業はどのようにあるべきか、という問いを投げかけていると思います。多くの示唆にとんだ一冊です。
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